こんな人・場面向けの記事です:自社のシステムやWebサービスの脆弱性診断を、AIツールに任せられるかを検討している、情報システム・セキュリティ・経営企画の担当者の方。
この記事で分かること
- セキュリティ企業Cobaltの2026年の調査(約450人の専門家への調査)では、脆弱性の診断を「AIの自動化だけ」に頼る組織の割合が、29%から9%に下がりました。約半数(47%)は、人がAIを補助する「ハイブリッド型」を望んでいます[2]
- 理由として、回答者の78%が、完全自動のスキャンツールが重大な脆弱性を見逃したと答えています[2]
- AIを使う場合も、「どこまで自動化し、どこを人が確認するか」を決めることが重要です。ただし、調査元は診断サービスを提供する企業で、立場に注意が必要です(筆者の整理)
用語の整理
- ペンテスト(=侵入テスト):攻撃者の立場で、システムに侵入できるかを試す、模擬攻撃による診断です
- 脆弱性:システムの弱点や欠陥のことです
- 見逃し(偽陰性):本当は問題があるのに、「問題なし」と判定してしまうことです。診断では、見逃しが最も怖い誤りです
- ハイブリッド型:AIによる自動診断と、人による診断を組み合わせる方式です
調査の概要
Cobaltは、2026年4月に「State of Pentesting Report 2026」(第8版)を公開しました。1,500社を超える顧客の診断データと、450人のセキュリティ担当者へのアンケートに基づく調査です[1]。
AIによる診断の信頼については、2025年と2026年に行った、約450人の専門家への2回の調査を比較しています。Infosecurity Magazineは、2026年6月25日にその結果を報じました[2]。
| 項目 | 結果(報道された数値) |
|---|---|
| 診断を、AIの自動化だけに頼る組織 | 29%から9%に低下[2] |
| 人とAIのハイブリッド型を望む回答者 | 約半数の47%。1年で22ポイント増加[2] |
| 完全自動のスキャンが、重大な脆弱性を見逃した | 回答者の78%が経験[2] |
| リスクの低い環境で自動化を使う組織 | 22ポイント増えて47%[2] |
Cobaltの最高情報セキュリティ責任者(CISO)は、人の手を加えないアルゴリズムは、現在の自動スキャナーより、さらに多くの誤検知と、費用のかかる見逃しを返しやすい、という趣旨の見解を示しています[2]。
AIそのものの安全性も課題になっている
同じ調査は、AIを使ったシステム自体の脆弱性が増えていることも指摘しています[1][2]。
- LLM(=大規模言語モデル)を使ったアプリでは、重大なリスクとされる問題が、従来のソフトウェアの2.7倍の割合で見つかる[1]
- その脆弱性の修正率は38%で、診断の種類の中で最も低い。62%は未修正のまま[2]
- AI関連の脆弱性の解決にかかる平均日数は、19日から36日に延びた[2]
- 担当者の、AIの導入速度に安全対策が追いつけるという自信は、2025年の64%から、51%に低下した[1]
AIに関連する事故を経験した組織の中では、「シャドーAI」(=会社が把握していないAIツールの利用)が44%で最も多く、データやモデルの汚染が41%、出力の不適切な処理が41%、サプライチェーンの脆弱性が35%、プロンプトインジェクションが34%でした[2]。
調査から読み取れること(筆者の整理)
以下は、調査の内容を実務に置き換えた筆者の整理で、調査元の主張そのものではありません。
| 論点 | 整理 |
|---|---|
| AIだけに任せる診断は減っている | 専門家の間で、完全な自動化への慎重さが強まっている |
| 自動化を使う場所は、選ばれている | リスクの低い環境では、自動化の利用が増えた。用途による使い分けが進んでいる |
| 診断の結果を、人が確認する | 見逃しの怖さから、人による確認を残す考え方が主流になりつつある |
| AIを使うシステムにも診断が必要 | 自社が導入したAIアプリも、診断の対象にする |
診断の後の「直す速さ」が差を分ける
Cobaltのブログは、診断そのものより、見つけた問題を直す速さに大きな差があると述べています[1]。
| 項目 | 報告された内容 |
|---|---|
| 重大な問題が半分に減るまでの日数(半減期) | 上位の組織は10日。下位10%の組織は249日で、約25倍の差[1] |
| 修正の期限を守れているという認識 | 経営層の57%は守れていると回答したが、実務担当者で同意したのは15%[1] |
| 継続的に診断を行う組織 | 53%が継続的・組み込み型で、コンプライアンス対応中心の40%を上回った[1] |
| 重大な問題を3日以内に解決できる確率 | 継続的に取り組む組織は、場当たり的な組織の4.5倍[1] |
この数字は、AIで診断を速くしても、直す体制が整っていなければ、リスクは残ることを示しています(筆者の整理)。経営層と現場で、修正の実態の認識が大きく異なる点も、体制を見直す手がかりになります。
具体例:診断を外部に依頼するときの確認手順(筆者の整理)
- 診断の対象(Webサービス、社内システム、AIアプリ)を、重要度で分ける
- 重要度の高い対象には、人による診断を含める。低い対象で、自動診断を使う
- 依頼先に、AIの自動診断の結果を、人が確認して報告するかを尋ねる
- 見つかった問題の、修正の期限(例:重大なものは数日以内)と担当者を決める
- 修正が進んでいるかを、現場の担当者と経営層の両方が確認できる形で記録する
保存用チェックリスト:脆弱性診断にAIを使う前に
- 診断の対象を、リスクの高低で分けているか(重要な顧客情報を扱う環境か、社内の低リスクな環境か)
- 自動スキャンの結果を、人が確認する担当と手順があるか
- 「問題なし」という結果を、そのまま信じない運用になっているか
- 見つかった脆弱性を、いつまでに直すかの期限と担当を決めているか
- 自社が導入したAIアプリ(チャットボットなど)も、診断の対象に入っているか
- 会社が把握していないAIツールの利用(シャドーAI)を、点検しているか
上司・同僚に説明する3行
- Cobaltの調査では、脆弱性診断をAIの自動化だけに頼る組織が、29%から9%に減った[2]
- 回答者の78%が、自動スキャンの見逃しを経験している[2]
- 自社では、リスクの低い環境から自動化を使い、重要な環境は人が確認する体制を検討する
よくある質問
Q1. AIによる診断は、使わないほうがよいのですか?
調査は、AIの利用そのものを否定していません。リスクの低い環境で自動化を使う組織は増えています[2]。問題は、人の確認なしにAIだけに任せる使い方です。
Q2. 診断の費用は、AIでどれくらい下がりますか?
この調査は、費用の削減幅を示していません。費用の数字は、別の情報源で、根拠を確認してから判断してください。
Q3. 自社のAIチャットボットも診断が必要ですか?
調査は、AIを使ったシステムで重大な問題が多く見つかっていると報告しています[1]。導入したAIも、診断の対象に含めることを検討してください。
限界・未確認事項
- 本記事は、Cobaltのブログ(4月21日付)と、Infosecurity Magazineの報道(6月25日付)に基づいています。調査の全文は確認していません。
- Cobaltは、診断サービスを提供する企業です。人による診断の価値を示す方向に、調査の見せ方が影響を受ける可能性があります。
- 調査の回答者は約450人で、日本の企業や業種の分布は分かりません。
- 「AIの自動化だけに頼る組織」の定義や、質問の文言は、確認できた範囲では詳細が示されていません。
- 各AIツールの見逃しの割合は、この調査からは分かりません。


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